読んだ本とかのまとめ(2022年11月)

読んだ本

『失われた地図』は,土地の記憶から現れる異形の存在である「グンカ」を封じる力をもつ異能力者の人々の話. 恩田陸の異能力ファンタジー作品,作中の能力者たちのキャラクターの濃さや,異能力バトルの合間に挟まる日常の世俗感がいい(今作だと呉の食堂の場面とか). 人生で一回でいいから「なに油売ってんのよーっ」という台詞に対して「いや、売ってるのは油じゃなくて、だし汁なんだけどな」ってツッコミいれてみたい.

今月はいろいろあって出家したくなったので,登場人物が出家しそうな本を読んだ.

『門』の宗助は,禅門を叩きはしたものの,出家はしなかった.

『シッダールタ』は書名からして釈迦の生涯を描いた作品なのかと思いきや,釈迦の名に仮託して求道者の道のりを描いた作品であり,歴史上の人物としての釈迦とはあまり関係なさそうだった(実際,主人公はシッダールタという名前ではあるがゴータマ・シッダールタ(=釈迦)ではなく,「ゴータマ」という名を持つ覚者が別に登場する). いわゆる出家は序盤で達成したのだが,途中でだいぶ俗世にまみれてしまっていた.まあ悟りに至るためには必要だったみたいだけど.

『神の微笑』は作者・芹沢光治良の人生における宗教的体験を振り返る作品. といっても,主人公の「僕」は基本的には無信仰であり,(数々の宗教的体験をしているにも関わらず)宗教とは距離を置くスタンスをとっている. それゆえか,人生における宗教的体験を理性的にみつめて考察し,その上で文学者としての神への向き合い方を突き詰めていく様子が印象的だった.物理学者のジャックの理系的な神観も興味深かった.なお出家はしなかった.