読んだ本とかのまとめ(2023年2月)

読んだ本

無伴奏ソナタ』:全体的にホラーでブラックな短編が多かったような印象.「四階共用トイレの悪夢」は直球のホラーすぎてトラウマになりそう.「アグネスとヘクトルたちの物語」は,主人公の熱意と努力がまっとうに実っていくのかと思いきや,最後の最後ですべてが引っくり返される展開にぞっとしつつも惹きつけられる.

『HHhH』:歴史小説のようでもありエッセイのようでもあり,読んでいて不思議な感覚になる.

『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』:恩田陸が絶賛していたので読んでみた.著者がフランスで暮らしていた時期に,出会った料理・作った料理の数々が綴られている.自分自身はあまり食事に興味がないだけに,著者のように食に対する豊かな感覚を持っている人がうらやましい.

『消滅』:10年くらい前の作品なのにAIや感染症とかに関する話題が出てきて驚く.密室サスペンス……のはずなのにどことなくほのぼのした雰囲気が漂ってくるのが恩田陸らしくてよかった.

読んだ本とかのまとめ(2023年1月)

読んだ本

『歩道橋シネマ』:短編集. 『EPITAPH東京』のスピンオフである「悪い春」が現実になりませんように. 「春の祭典」は,準備中のバレエ小説の習作とのこと. 恩田陸の芸術系作品(『チョコレートコスモス』とか『蜜蜂と遠雷』とか)は,作者の鑑賞時の感動がダイレクトに言葉に変換されているような臨場感がある. バレエ小説本編(?)が楽しみ.

ピエタとトランジ』:主人公ピエタの友人トランジは,行く先々で殺人事件(しかもグロめ)を誘発する特殊体質をもっている. よって全体的に人がよく死ぬし,揃いも揃ってろくな死に方をしない. それでも,主人公たちのキャラクターのおかげもあってか,あまり陰惨な雰囲気を感じない. トランジみたいな友人がいると人生退屈しなさそう.

『ミュージカルの歴史』は,「なぜ突然歌いだすのか」という副題につられて手にとったのだが,歌劇の歴史をたどりつつ現代ミュージカルまでの一通りの流れを知ることができてよかった. もっとも今までミュージカルを見たことがない(せいぜい映画の『レ・ミゼラブル』程度)ので,作品解説を読んでもいまひとつピンとこないのが悲しい.

『紙の月』の登場人物は,約一億円を横領した主人公を筆頭に,自覚なく金銭感覚が狂ってしまっている人だらけで,まっとうな金銭感覚の難しさを痛感させられる. 自分もいつかそうなる(もうなっているかもしれない)と思うとなかなか恐ろしい.

ケン・リュウは,『紙の動物園』(文庫版)を読んでファンタジーっぽい作風の人だなと思っていたが,『紙の動物園』と今回読んだ『もののあはれ』はそれぞれファンタジー編・SF編となるように構成されているらしい. 『もののあはれ』はSF編とはいうものの,やはり全体的にファンタジーで詩的なセンスが漂っている気がする. 人ならざる存在が描かれたSFが好きなので,「選抜宇宙種族の本づくり習性」や進化した人類を描く「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「波」あたりが特によかった.

『麦酒の家の冒険』:『九マイルは遠すぎる』ばりの安楽椅子探偵を長編で行うという挑戦らしい(あとがきでの作者談). 自分が酒を嗜まないのもあって,ビール × 学生 × 本格ミステリという組み合わせになんだかファンタジー的な憧れを感じがち.

街道をゆく 愛蘭土紀行 1』:アイルランド紀行とはいうものの,本書の半分くらいは道中のイギリスの話だったりする.スウィフト・ジョイスベケットといったアイルランドを代表する作家たちの話,英国国教会アイルランドカトリックの対立,大英帝国という強国に接するがゆえの悲哀など,紀行文のなかに差し込まれる余談のなかに学びが多い.

『メガロマニア』:こちらも紀行エッセイ.中米のマヤ文明遺跡という非日常感に満ちたロケーションもあって,多分にファンタジー感がある.作家の空想を疑似体験している感覚になった.

読んだ本とかのまとめ(2022年12月)

読んだ本

『虚無への供物』は意外と読みやすかった. 主要登場人物が誰も彼も筋金入りの推理小説マニアで,古今東西推理小説を引き合いに出しつつ各々勝手な推理合戦を繰り広げていくのが面白い. 殺人事件が起きたときに即座にノックスの十戒の話をはじめる精神は持ち合わせておきたい.

どちらかというと『後宮小説』の方が奇書だった.近世中国っぽい王朝の後宮を舞台とした歴史小説風のファンタジー.登場するのが揃いも揃ってやたらとクセの強く愉快な人物ばかりで,毎ページ「そうはならないだろ」とツッコミを入れたくなる.作中の出来事について,地の文が「史実は小説よりも奇なり」とぬけぬけと言ってのけていた(当然史実ではない)のが白々しくて好き.

『愚かな薔薇』は『幼年期の終り』を恩田陸が書くとこうなるかといった感じ. 『EPITAPH東京』にも吸血鬼が出てきたし,近年刊行の恩田陸作品には吸血鬼ネタの登場率が高い. 作家が吸血鬼に凝りはじめたのかとも思ったが,本書の執筆開始は10年以上前らしいので,そういうわけでもなさそう. SF・伝奇・ミステリとてんこもりの内容でありつつ,のどかな山村小説っぽい雰囲気もあるあたりは,さすが恩田陸作品といったところ.

『或る「小倉日記」伝』は鬱小説集だった. 人生はなるようにはならないものだし,人間は狂うときには自覚なく狂うというのを痛感させられる. 収録作「断碑」の主人公・木村卓治は,高校の恩師の親戚がモデルになっているらしいという話を思い出して懐かしくなった.

『我が友、スミス』は「筋肉はすべてを解決する」といわんばかりの勢いあふれる筋トレボディビル大会小説で清々しかった. 本書と『或る「小倉日記」伝』を戦わせたら対消滅を起こしそう. 分野は何であれ,自分に自信が持てるレベルで没頭できることがあるのは羨ましい.

『推し、燃ゆ』は2022年読みたかった本ランキングNo. 1だったので年内に読むことができてよかった. 「推し」も一人の人間であって,決して神ではないという単純な事実の受け入れがたさが悲しい. その現実に直面させられてもなお,たかだか綿棒のケースを投げ捨てる程度にしか壊れられない主人公も絶望的なまでに悲しい. 推しは燃えないでほしいし,人間宣言しないでほしいし,病気や怪我なく幸せでいてほしいが,世の中ままならない…….

『老ヴォールの惑星』:日本人作家のSFを読むの久々な気がする.やっぱり母国語の本の方が著者の筆致がダイレクトに伝わってきて心地いい気がする.登場人物たちの生存意欲が高すぎる.表題作「老ヴォールの惑星」のように,地球とは完全に異なる環境で進化した異星の生命の物語は,いろいろと想像がはかどるので好き.

『闘争領域の拡大』:クリスマスなので読んだ.ポケモンバトル理論だ……. 本書の主人公が『後宮小説』を読んだら闘争領域のインフレーションっぷりに驚いて爆発四散しそう. この本を読んでからというもの,世の物事を見るたび,「これは闘争領域が拡大しているのか・縮小しているのか」を考える悪癖がついてしまった.

『皆のあらばしり』:地方都市の名家に埋まっている骨董本を探索するのに何となくあこがれがある.来世は生活に不安のない石油王にでもなって,趣味で文系研究者やりたい(本作の「男」的な感じ).

ガリレオの生涯』:終盤,弟子に向けてガリレオが語った科学の目的や意義の話,やや耳が痛い.「科学の唯一の目的は、人間の生存の辛さを軽くすることにある」「新しい成果に対して君たちがあげる歓呼の叫びが、全世界のあげる恐怖の叫びになってしまう」(光文社古典新訳文庫ガリレオの生涯』より)といったあたりとか. まあそんな高尚なことを気にするより,目先の研究タスクをしっかりこなせるようにならないといけないんですが.

『嘘と正典』:「魔術師」が特によかった. 「魔術師」,ノーランの『プレステージ』的なトリックかと思ったけど,そういうわけではなさそうだった. プリーストの『奇術師』(『プレステージ』の原作)とタイトルが似通っているということはオマージュなんだろうか? 表題作の「嘘と正典」はMCUドラマの『ロキ』を思い出した.

読んだ本とかのまとめ(2022年11月)

読んだ本

『失われた地図』は,土地の記憶から現れる異形の存在である「グンカ」を封じる力をもつ異能力者の人々の話. 恩田陸の異能力ファンタジー作品,作中の能力者たちのキャラクターの濃さや,異能力バトルの合間に挟まる日常の世俗感がいい(今作だと呉の食堂の場面とか). 人生で一回でいいから「なに油売ってんのよーっ」という台詞に対して「いや、売ってるのは油じゃなくて、だし汁なんだけどな」ってツッコミいれてみたい.

今月はいろいろあって出家したくなったので,登場人物が出家しそうな本を読んだ.

『門』の宗助は,禅門を叩きはしたものの,出家はしなかった.

『シッダールタ』は書名からして釈迦の生涯を描いた作品なのかと思いきや,釈迦の名に仮託して求道者の道のりを描いた作品であり,歴史上の人物としての釈迦とはあまり関係なさそうだった(実際,主人公はシッダールタという名前ではあるがゴータマ・シッダールタ(=釈迦)ではなく,「ゴータマ」という名を持つ覚者が別に登場する). いわゆる出家は序盤で達成したのだが,途中でだいぶ俗世にまみれてしまっていた.まあ悟りに至るためには必要だったみたいだけど.

『神の微笑』は作者・芹沢光治良の人生における宗教的体験を振り返る作品. といっても,主人公の「僕」は基本的には無信仰であり,(数々の宗教的体験をしているにも関わらず)宗教とは距離を置くスタンスをとっている. それゆえか,人生における宗教的体験を理性的にみつめて考察し,その上で文学者としての神への向き合い方を突き詰めていく様子が印象的だった.物理学者のジャックの理系的な神観も興味深かった.なお出家はしなかった.

読んだ本とかのまとめ(2022年10月)

読んだ本

忙しくなってくると小説に偏りがち.

『EPITAPH東京』は「東京」という町をテーマにしたエッセイのような小説. 恩田陸の作品の中には街・都市をテーマにした作品が結構ある気がする(『象と耳鳴り』とか『月の裏側』とか『クレオパトラの夢』とか). このジャンル(?)の作品を読むと,著者の博覧強記ぶりや,何気ない街角から物語を見つけ出す才に感化されて,いつもの街並みもどこか違って見えてくる気がする. 恩田陸の小説片手に舞台になっている場所を歩くのはいつかやってみたい.

ティプトリーの『あまたの星、宝冠のごとく』に収められた短編群は,予測可能回避不可能なバッドエンド展開が多く,最後までハラハラしながら読んでいた. 「地球は蛇のごとくあらたに」が宗教味を感じて好きだった.

読んだ本とかのまとめ(2022年9月)

読んだ本

『紙の動物園』はSFというよりはファンタジー色強めの作品で不思議な感覚になった. 巻末の解説を見ると,『紙の動物園』はケン・リュウの作品の中でもファンタジー系の作品を集めた作品集とのことらしい. 他の作品も読んでみたいところ.

『格闘する者に○』は,就活の時期ということで読んでみた. とりあえず,就活はギリギリまでしなくてよい・SPIや面接の対策は必要ない・スーツ着用を明示されない限りスーツを着るべきではないといった学びを得られた.

読んだ本とかのまとめ(2022年8月)

読んだ本

『しあわせの理由』は,表題作の「しあわせの理由」・「道徳的ウイルス学者」・「移相夢」あたりが特に面白かった. 表題作の「しあわせの理由」に出てくる感情コントロールシステム,早く実用化されてほしい.

『八月の銀の雪』も(SFではないにしろ)全体的に科学のエッセンスを感じる作品だな〜と思って著者プロフィールを見たら理系博士号持ちだったので納得.

文章自動生成系の研究をやっていると,書き手が人間であるかAIであるかが文章の批評に影響するのか少し気になることがあったので,そういう点でも『伝奇集』の「『ドン・キホーテ』の著者、ピエール・メナール」は興味深かった.

『ドミノin上海』は,前作『ドミノ』から引き続き,愉快な登場人物たちのドタバタ劇が楽しい作品だった. 登場人物たちの生き生きとした個性の描かれ方や,あらゆる伏線が一点に収束していく様がまさに職人芸. 恩田陸の作品,それぞれのジャンルやタッチの振れ幅が大きいのにどれも面白いので本当に良い……