読んだ本とかのまとめ(2023年3月)

読んだ本

街道をゆく 愛蘭土紀行 2』:前編は半分くらいイギリスの話だったけれど,後編はアイルランド一巡り. アイルランド人のアイデンティティは,兎にも角にも大英帝国という強国に隣接したがゆえの悲哀と反骨精神に形作られているらしい. イェイツ,ジョイス,シング,ベケットあたりのアイルランド文筆家陣の作品はいつか読んでみたい. 前編は文庫版,後編はワイド版で読んだが,ワイド版は文庫版よりも参考写真や地図が充実していてよかった.

『灰の劇場』:エッセイ・小説・演劇が入り混じったような不思議な作品だった. エッセイと小説が同時に進行していく構造は,最近読んだ『HHhH』と似たような雰囲気. 恩田陸も『HHhH』読んだらしいし,影響受けてるんだろうか. 恩田陸の作品は,フィクション・ノンフィクションを問わず,独特の空気感が変わらず根底を流れているので,小説とエッセイの境界線がゆるやかにつながっているように感じられる.

『白の劇場』:恩田陸のファンブック的なムック本. 恩田陸 × 小川洋子という好きな作家どうしの対談が嬉しい. 巻末の全作品解説を見ると,読んだはずなのに忘れてる作品が結構あることに気付かされる……. 『灰の劇場』が『HHhH』と趣向が似てることについても触れられてた(偶然のネタ被りらしい).

『猫のゆりかご』:シュール.気付いたら世界が滅びていた. しばらく前に「主人公が出家する本」を探していた時期があったが,この本がまさにそうだった. 出家といっても,入信先はボコノン教という非常に胡散臭い新興宗教なのだが……. このボコノン教,胡散臭さでは人後に落ちないが,『完全教祖マニュアル』に書いてあったような新興宗教開宗の要点はしっかり抑えていてポイント高い.

『鴨川ランナー』:まず著者が外国人とは思えないほどの美しい日本語・流れるような文体に驚く. コンフォートゾーンから死んでも出たがらないタイプの人間としては,外国に行きたい人の思考はいまひとつ想像できない. まして外国から日本に来る人となるとなおさらなのだが,物語が二人称(「きみ」)で進んでいくのもあってか,「日本で暮らすことを選んだ外国人」の実感が得られるような気持ちになる本だった.

『言壺』:対話ベースの文章執筆AI「ワーカム」に「言葉」を奪われつつある世界の話. ChatGPTをはじめとする対話AIが隆盛を極める昨今の情勢を不気味なほどに描き出していて,読んでいて鳥肌が立った. 1988年初出とはとても思えない(なんならプロンプトインジェクションみたいな発想まで登場する). 著者の発想力も凄まじいが,それに追いつき追い越しつつある技術発展にも改めてびっくり.

『幼女と煙草』:小学生くらいのころに読んでおきたかった.主人公の倫理観の狂い方がいい感じ.心あたたまるハートフル小説もいいけど,たまにはこういうブラックユーモア小説を読んでバランスをとっていきたい(?)

『来世の記憶』:SF(?)短編集.世界,知らない間に滅びがち.「スパゲティ禍」は滅び方のインパクトと登場人物の淡白さの対称的な描かれ方が絶妙だった.「鈴木さんの映画」にでてくるニコラス・ケイジAI,人類がもっとも必要としているものでは.