読んだ本とかのまとめ(2023年7月)

読んだ本
  • 恩田陸『七月に流れる花』
  • 恩田陸『八月は冷たい城』
  • 『百合小説コレクション wiz』
  • 柴崎友香『春の庭』
  • シュペルヴィエル『海に住む少女』
  • クラウディア・マーティン『世界の廃墟島』
  • 六嶋由岐子『ロンドン骨董街の人びと』

『七月に流れる花』『八月は冷たい城』:連作。周囲から隔絶された学園というテーマでいうと名作『麦の海に沈む果実』を連想させられる。不穏な空気感とどこか幻想的な舞台設定の相性が秀逸。

『海に住む少女』:訳者あとがきの「フランス版宮沢賢治」という評が言い得て妙。寓話的で詩的な文章の中に、どこか不穏で死の気配も感じさせる物語が美しかった。

『ロンドン骨董街の人びと』:エッセイというより小説に近いような密度の濃さが心地良い。ロンドンの古美術商に職を得た著者のエッセイ。気位の高い英国紳士から見た日本評(当時バブルまっただなか)がなんとも渋い。ジャパンマネーが成金として世界を席巻していた時代……。外国で東洋美術にふれる経験、いつかしてみたい。

読んだ本とかのまとめ(2023年6月)

読んだ本

『スキマワラシ』: 「のどかで穏やかだけど徐々に再開発が進んでいって少しずつ変わっていく都市」という舞台設定だけで郷愁をそそられる。 まして、それに恩田陸のノスタルジックな情景描写が加えられるのだから、もはや懐かしさすら感じるレベル。 古道具と現代アートの組み合わせが見られるアートフェス、実際に開催されていたら行ってみたい。

『はじめて学ぶ茶の湯』:最近、裏千家に興味をひかれたので読んでみた。写真と丁寧な説明付きでわかりやすい……が、細かいお作法が大量にあるので、実際にやってみないと到底覚えられなさそう。

『もしも、エリザベス女王のお茶会に招かれたら?』:特に意識したわけではないが、洋の東西の飲み物系文化の本を立て続けに読んだ。アフタヌーンティーは前から興味があったのでいつか行ってみたい。

文学少女対数学少女』:面白かった。数学苦手な理系だけど、サイモン・シンの『フェルマーの最終定理』や小川洋子の『博士の愛した数式』みたいな軽めの数学本は好き。本書も、数学のなかでも「面白い」部分をうまく抽出してミステリネタとつなげているのがよかった。主人公の陸秋槎と数学少女の韓采蘆の関係性なども読みどころ。あとがき・解説が、日本の本格ミステリサーベイ資料といわんばかりの充実度なのも良い。

読んだ本とかのまとめ(2023年5月)

読んだ本

『チャリング・クロス街84番地』:ニューヨークの脚本家・ヘレーン(本作の編著者)とロンドンの古書店との二十年にわたる書簡集。海を越えてまで古書を郵送してもらうというのにまずびっくり。やりとりを重ねるうちにフランクさが増していくヘレーンに対し、古書店員はどこまでも紳士的でプロフェッショナルな文面が貫かれているのも面白かった。見識深い古書店員に本を見繕ってもらう経験、一度でいいからやってみたい(そもそも古書店を訪れたこともほとんどないけれど……)。

『人生論ノート』:「虚栄について」あたりが面白かった。雨宮吾郎さんも「この世の大抵はフィクションである」って言っていたし。全体的に思っていたよりポジティブ思考な本だったので意外。

『日本の水族館五十三次』:「イラストで読む建築」と銘打っているだけあって建築的な観点からの水族館解説が新鮮。水槽の中だけでない水族館の魅力が活き活きとしたイラスト付きで描き出されていて、水族館めぐりの旅に出たくなった(せめて都内の水族館くらいは……)。

『タマゴマジック』:仙台を舞台にした都市伝説小説。恩田陸の作品は「都市」を舞台にした作品が多いが、恩田陸の出身地である仙台が舞台になっているのは珍しい気がする。都市伝説をテーマにしつつSFっぽさもありミステリっぽさもある安心感。

泣き虫弱虫諸葛孔明(第壱部)』:あまりにも面白すぎる。孔明劉備を輔佐するようになるまでを描いた歴史小説……のはずなのだが、著者の勢い溢れる秀逸な文体と卓抜したユーモアのセンス、完全に歴史小説の枠から飛び出している。

『死ぬまでに一度は訪ねたい東京の文学館』:東京にこんなに文学館があるとは知らなかった。文学館めぐりの旅もいつかやってみたい。

アホウドリの迷信』:英米文学の短編集。全体的に、体調が悪くて熱っぽいときにみる夢の中に迷い込んだような気分になる。詩的な文章表現も秀逸。原文だとどんな感じなのか気になる。表題作の「アホウドリの迷信」や、「アガタの機械」あたりのちょっと冷めた恐怖感が好きだった。

読んだ本とかのまとめ(2023年4月)

読んだ本

文章読本』:森鴎外の『渋江抽斎』や志賀直哉の『暗夜行路』、時間のある学生のうちに読んでおきたかった。

『アラゲイジアの物語』:ドラゴンライダーシリーズ、外伝が出てたの知らなかった……。

『錆びた太陽』:登場するロボットたちの絶妙な人間臭さと、国税庁職員・財前徳子のつかみどころのなさが面白かった。ポストアポカリプスな舞台設定でありつつ、やっぱりほのぼのした雰囲気がただようのが恩田陸らしくて好き。

レベッカ』:イギリス・やたらと巨大な屋敷・優雅な貴族・怪事件と、好きな要素が詰め込まれていてよかった。ゴシックロマンの金字塔という解説評も納得。

『象られた力』:全体的に神話めいた作品の多いSF短編集。人類の諸神話も異星人によって埋め込まれたものだったら面白そう。

読んだ本とかのまとめ(2023年3月)

読んだ本

街道をゆく 愛蘭土紀行 2』:前編は半分くらいイギリスの話だったけれど,後編はアイルランド一巡り. アイルランド人のアイデンティティは,兎にも角にも大英帝国という強国に隣接したがゆえの悲哀と反骨精神に形作られているらしい. イェイツ,ジョイス,シング,ベケットあたりのアイルランド文筆家陣の作品はいつか読んでみたい. 前編は文庫版,後編はワイド版で読んだが,ワイド版は文庫版よりも参考写真や地図が充実していてよかった.

『灰の劇場』:エッセイ・小説・演劇が入り混じったような不思議な作品だった. エッセイと小説が同時に進行していく構造は,最近読んだ『HHhH』と似たような雰囲気. 恩田陸も『HHhH』読んだらしいし,影響受けてるんだろうか. 恩田陸の作品は,フィクション・ノンフィクションを問わず,独特の空気感が変わらず根底を流れているので,小説とエッセイの境界線がゆるやかにつながっているように感じられる.

『白の劇場』:恩田陸のファンブック的なムック本. 恩田陸 × 小川洋子という好きな作家どうしの対談が嬉しい. 巻末の全作品解説を見ると,読んだはずなのに忘れてる作品が結構あることに気付かされる……. 『灰の劇場』が『HHhH』と趣向が似てることについても触れられてた(偶然のネタ被りらしい).

『猫のゆりかご』:シュール.気付いたら世界が滅びていた. しばらく前に「主人公が出家する本」を探していた時期があったが,この本がまさにそうだった. 出家といっても,入信先はボコノン教という非常に胡散臭い新興宗教なのだが……. このボコノン教,胡散臭さでは人後に落ちないが,『完全教祖マニュアル』に書いてあったような新興宗教開宗の要点はしっかり抑えていてポイント高い.

『鴨川ランナー』:まず著者が外国人とは思えないほどの美しい日本語・流れるような文体に驚く. コンフォートゾーンから死んでも出たがらないタイプの人間としては,外国に行きたい人の思考はいまひとつ想像できない. まして外国から日本に来る人となるとなおさらなのだが,物語が二人称(「きみ」)で進んでいくのもあってか,「日本で暮らすことを選んだ外国人」の実感が得られるような気持ちになる本だった.

『言壺』:対話ベースの文章執筆AI「ワーカム」に「言葉」を奪われつつある世界の話. ChatGPTをはじめとする対話AIが隆盛を極める昨今の情勢を不気味なほどに描き出していて,読んでいて鳥肌が立った. 1988年初出とはとても思えない(なんならプロンプトインジェクションみたいな発想まで登場する). 著者の発想力も凄まじいが,それに追いつき追い越しつつある技術発展にも改めてびっくり.

『幼女と煙草』:小学生くらいのころに読んでおきたかった.主人公の倫理観の狂い方がいい感じ.心あたたまるハートフル小説もいいけど,たまにはこういうブラックユーモア小説を読んでバランスをとっていきたい(?)

『来世の記憶』:SF(?)短編集.世界,知らない間に滅びがち.「スパゲティ禍」は滅び方のインパクトと登場人物の淡白さの対称的な描かれ方が絶妙だった.「鈴木さんの映画」にでてくるニコラス・ケイジAI,人類がもっとも必要としているものでは.

読んだ本とかのまとめ(2023年2月)

読んだ本

無伴奏ソナタ』:全体的にホラーでブラックな短編が多かったような印象.「四階共用トイレの悪夢」は直球のホラーすぎてトラウマになりそう.「アグネスとヘクトルたちの物語」は,主人公の熱意と努力がまっとうに実っていくのかと思いきや,最後の最後ですべてが引っくり返される展開にぞっとしつつも惹きつけられる.

『HHhH』:歴史小説のようでもありエッセイのようでもあり,読んでいて不思議な感覚になる.

『巴里の空の下オムレツのにおいは流れる』:恩田陸が絶賛していたので読んでみた.著者がフランスで暮らしていた時期に,出会った料理・作った料理の数々が綴られている.自分自身はあまり食事に興味がないだけに,著者のように食に対する豊かな感覚を持っている人がうらやましい.

『消滅』:10年くらい前の作品なのにAIや感染症とかに関する話題が出てきて驚く.密室サスペンス……のはずなのにどことなくほのぼのした雰囲気が漂ってくるのが恩田陸らしくてよかった.

読んだ本とかのまとめ(2023年1月)

読んだ本

『歩道橋シネマ』:短編集. 『EPITAPH東京』のスピンオフである「悪い春」が現実になりませんように. 「春の祭典」は,準備中のバレエ小説の習作とのこと. 恩田陸の芸術系作品(『チョコレートコスモス』とか『蜜蜂と遠雷』とか)は,作者の鑑賞時の感動がダイレクトに言葉に変換されているような臨場感がある. バレエ小説本編(?)が楽しみ.

ピエタとトランジ』:主人公ピエタの友人トランジは,行く先々で殺人事件(しかもグロめ)を誘発する特殊体質をもっている. よって全体的に人がよく死ぬし,揃いも揃ってろくな死に方をしない. それでも,主人公たちのキャラクターのおかげもあってか,あまり陰惨な雰囲気を感じない. トランジみたいな友人がいると人生退屈しなさそう.

『ミュージカルの歴史』は,「なぜ突然歌いだすのか」という副題につられて手にとったのだが,歌劇の歴史をたどりつつ現代ミュージカルまでの一通りの流れを知ることができてよかった. もっとも今までミュージカルを見たことがない(せいぜい映画の『レ・ミゼラブル』程度)ので,作品解説を読んでもいまひとつピンとこないのが悲しい.

『紙の月』の登場人物は,約一億円を横領した主人公を筆頭に,自覚なく金銭感覚が狂ってしまっている人だらけで,まっとうな金銭感覚の難しさを痛感させられる. 自分もいつかそうなる(もうなっているかもしれない)と思うとなかなか恐ろしい.

ケン・リュウは,『紙の動物園』(文庫版)を読んでファンタジーっぽい作風の人だなと思っていたが,『紙の動物園』と今回読んだ『もののあはれ』はそれぞれファンタジー編・SF編となるように構成されているらしい. 『もののあはれ』はSF編とはいうものの,やはり全体的にファンタジーで詩的なセンスが漂っている気がする. 人ならざる存在が描かれたSFが好きなので,「選抜宇宙種族の本づくり習性」や進化した人類を描く「どこかまったく別な場所でトナカイの大群が」「波」あたりが特によかった.

『麦酒の家の冒険』:『九マイルは遠すぎる』ばりの安楽椅子探偵を長編で行うという挑戦らしい(あとがきでの作者談). 自分が酒を嗜まないのもあって,ビール × 学生 × 本格ミステリという組み合わせになんだかファンタジー的な憧れを感じがち.

街道をゆく 愛蘭土紀行 1』:アイルランド紀行とはいうものの,本書の半分くらいは道中のイギリスの話だったりする.スウィフト・ジョイスベケットといったアイルランドを代表する作家たちの話,英国国教会アイルランドカトリックの対立,大英帝国という強国に接するがゆえの悲哀など,紀行文のなかに差し込まれる余談のなかに学びが多い.

『メガロマニア』:こちらも紀行エッセイ.中米のマヤ文明遺跡という非日常感に満ちたロケーションもあって,多分にファンタジー感がある.作家の空想を疑似体験している感覚になった.